相続税の配偶者控除|1億6,000万円と法定相続分、どちらが使えるか

相続税には「配偶者の税額の軽減」という制度があり、亡くなった人の配偶者が実際に取得した遺産のうち、1億6,000万円と配偶者の法定相続分相当額のどちらか多い金額までは相続税がかかりません。つまり法定相続分どおりに分けた配偶者であれば、遺産総額がどれだけ大きくても配偶者の相続税は0円になり得ます。ただし「配偶者の取得分が確定していること」が条件で、遺産分割が申告期限に間に合わないと使えません。この記事では、国税庁の情報をもとに、控除額の考え方・実際の税額計算の流れ・分割が間に合わなかったときの対処法を順に整理します。

本記事は令和7年4月1日現在の法令等(国税庁タックスアンサー No.4158・No.4152)に基づいています。税制は改正されることがあるため、実際の申告にあたっては最新情報を国税庁サイトまたは税務署でご確認ください。

配偶者控除の上限は「2つの基準」の高い方

国税庁 No.4158 配偶者の税額の軽減によれば、配偶者の税額の軽減とは、被相続人の配偶者が遺産分割や遺贈により実際に取得した正味の遺産額が、次の金額のどちらか多い金額までは配偶者に相続税はかからないという制度です。(1)1億6千万円(2)配偶者の法定相続分相当額。どちらか一方ではなく「多い方」が基準になる点がポイントです。

基準 内容 どんな人に有利か
基準1:定額基準 1億6,000万円 遺産が少なめ〜中規模で、配偶者の法定相続分相当額が1億6,000万円に満たないケース
基準2:法定相続分基準 配偶者の法定相続分相当額(相続人の構成で変わる) 遺産総額が大きく、配偶者の取り分(法定相続分)が1億6,000万円を超えるケース

配偶者の法定相続分は、他の相続人が誰かによって変わります。国税庁 No.4132 相続人の範囲と法定相続分では、次のように定められています。

相続人の組み合わせ 配偶者の法定相続分
配偶者と子供 2分の1
配偶者と直系尊属(父母など) 3分の2
配偶者と兄弟姉妹 4分の3
配偶者のみ(他に相続人がいない) 全部

例えば遺産総額が10億円で相続人が配偶者と子供の場合、配偶者の法定相続分相当額は5億円になり、1億6,000万円より大きいので、こちらが上限になります。配偶者が法定相続分どおりに5億円を取得すれば、配偶者の相続税は0円です。

相続税額はどう計算されているか(配偶者控除が効く場所を確認する)

配偶者控除がどこで効くのかを理解するには、相続税全体の計算の流れを知っておく必要があります。国税庁 No.4152 相続税の計算では、次の順序で計算するとされています。

  1. 各人の課税価格を計算する(相続財産の価額から債務・葬式費用などを差し引く)
  2. 課税価格の合計額から基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を差し引いて、課税遺産総額を計算する
  3. 課税遺産総額を各法定相続人が法定相続分どおりに取得したと仮定して、相続税の総額を計算する
  4. 相続税の総額を、実際に財産を取得した人の課税価格の割合で按分し、各人の税額を出す
  5. 各人の税額から配偶者の税額軽減などの税額控除を差し引き、納付税額を確定する

つまり配偶者控除は、いちばん最後の「税額控除」の段階で配偶者の取り分にだけ適用されるもので、基礎控除や相続税の総額を計算する段階では出てきません。

モデルケースで計算してみる

国税庁が示す例をもとに、課税価格の合計額が1億円、法定相続人が配偶者と子2人のケースで計算してみます。

ステップ 計算 結果
基礎控除額 3,000万円+600万円×3人 4,800万円
課税遺産総額 1億円-4,800万円 5,200万円
配偶者の法定相続分に応ずる取得金額 5,200万円×2分の1 2,600万円
子1人あたりの法定相続分に応ずる取得金額 5,200万円×4分の1 1,300万円

ここに相続税の税率(超過累進税率、10〜55%の8段階)を当てはめます。税率と控除額の対応は次のとおりです。

法定相続分に応ずる取得金額 税率 控除額
1,000万円以下 10% ―
1,000万円超〜3,000万円以下 15% 50万円
3,000万円超〜5,000万円以下 20% 200万円
5,000万円超〜1億円以下 30% 700万円
1億円超〜2億円以下 40% 1,700万円
2億円超〜3億円以下 45% 2,700万円
3億円超〜6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

先ほどの取得金額に当てはめると、配偶者分は2,600万円×15%-50万円=340万円、子1人分は1,300万円×15%-50万円=145万円(2人で290万円)となり、相続税の総額は340万円+290万円=630万円になります。

この630万円を、実際の遺産分割の割合で按分してから配偶者控除を適用します。仮に配偶者が実際に遺産の半分(5,000万円)を取得したとすると、配偶者の税額は630万円×2分の1=315万円ですが、取得額5,000万円は1億6,000万円を下回るため、配偶者控除により315万円は全額0円になります。子供2人分の税額(合計315万円)には配偶者控除は適用されないため、そのまま納付することになります。

「分割が決まっていないと使えない」という一番の注意点

配偶者控除でもっとも見落とされがちなのが、適用のタイミングです。国税庁 No.4158は次のように説明しています。

この配偶者の税額軽減は、配偶者が遺産分割などで実際に取得した財産を基に計算されることになっています。したがって、相続税の申告期限までに分割されていない財産は税額軽減の対象になりません。

相続税の申告期限は原則として相続開始を知った日の翌日から10か月以内ですが、この期限までに遺産分割協議がまとまっていない財産は、いったん配偶者控除の対象外として申告することになります。ただし、救済措置が2つ用意されています。

状況 必要な手続き 期限
申告期限までに分割が間に合わないが、いずれ分割する見込みがある 申告期限後3年以内の分割見込書を相続税の申告書に添付する 分割見込書に基づき、申告期限から3年以内に分割
3年を経過しても、やむを得ない事情で分割できない 税務署長の承認を受ける その事情がなくなった日の翌日から4か月以内に分割

期限内に分割が完了し、上記の手続きを踏んでいれば、後から配偶者控除を適用できます。分割が終わったあとに軽減を受ける場合は、分割が成立した日の翌日から4か月以内に更正の請求という手続をする必要があります。うっかりこの4か月を過ぎると、配偶者控除を受けられなくなるおそれがあるため、遺産分割協議書がまとまったらすぐに動く必要があります。

申告時に必要な書類

配偶者控除を適用するには、申告書に添えて次の書類を提出します。国税庁 No.4158によると、税額軽減の明細を記載した相続税の申告書または更正の請求書に戸籍謄本等のほか遺言書の写しや遺産分割協議書の写しなど、配偶者の取得した財産が分かる書類を添えて提出してください。遺産分割協議書の写しには相続人全員の印鑑証明書(遺産分割協議書に押印したもの)も添付する必要があります。提出先は所轄税務署です。

自分のケースを試算するなら「相続税の申告要否判定コーナー」

ここまでの計算は手計算でも追えますが、財産の内訳が多い場合は国税庁の相続税の申告要否判定コーナーを使うと、自分のケースに近い数字で確認できます。このコーナーは、相続財産の金額などを入力することで申告のおおよその要否を判定するためのツールで、法定相続情報や配偶者の税額軽減を適用した場合の税額計算シミュレーションも行えます。なお、このツールで作成した内容がそのまま申告書になるわけではなく、あくまで概算の確認用です。基礎控除を超えるかどうかギリギリのラインにある人や、申告そのものが必要かどうか迷っている人は、まずここで数字を当てはめてみるのがおすすめです。

次にすること

配偶者控除を使うつもりなら、まず「申告期限までに遺産分割協議書をまとめられるか」を確認してください。間に合いそうにない場合は、税理士や税務署に相談したうえで「申告期限後3年以内の分割見込書」を申告書に添付する準備を進めます。分割協議がまとまったら、戸籍謄本・遺言書の写し・遺産分割協議書の写し(相続人全員の印鑑証明書付き)をそろえ、所轄税務署に申告書を提出します。申告後に分割が確定した場合は、成立日の翌日から4か月以内という更正の請求の期限を必ずカレンダーに書き込んでおきましょう。